当工房で製作するギターの指板は、Fall-away Fingerboard加工またはstraight Fingerboardの2種類があります。
この加工方法についてや指板の選択についてを詳しく下記にて説明をしたします。
1種類目のStraight Fingerboard加工について
Straight Fingerboardには2種類の加工方法があります。
Straight Fingerboardの傾斜なしは平行となったネック表面に指板材を貼り合わせてネック本体を完成させる商品となります。つまり一般的に販売されているネック本体と同じとなります。
ただし1種類目のStraight Fingerboardのデメリットとしては万が一ハイポジ起きになった時は指板修正または指板交換等が必要となる場合があります
2種類目のStraight Fingerboard加工について
Straight Fingerboardの傾斜ありは意図的に0.5mm程度ヘッド側に傾けて製造しています。
つまり指板を貼るネック本体を0.5mmほどヘッド側に傾けて指板を貼ることで弦を張った時にネックが自然と平行となるだけでなく、音の伝達が良くなり経年変化や日本の高温多湿の気候の変化等によるネックの変化を防ぐ効果もあります。
つまりわかりやすく説明するとギターに弦を張るとネック本体のヘッドは起き上がります。
この起き上がりはネックエンドからではなくジョイントの先から起き上がるために意図的に0.5mm程度ヘッド側に傾けることで事前に起き上がった分を補正することで自然と平行となる方法となります。
この製法は多くのハイエンドギターに採用されています。
ただし一般的に張られている弦径サイズよりも太くなるとジョイントの先から起き上がる幅が大きくなるので注意が必要です。
Fall-away加工について
この指板の加工方法は、ギター職人の間ではFall-awayまたはDrop-offと云われています。
このFall-awayの目的は弦張力の影響を補正する方法となります。
ギターの指板のすり合わせではネックに張力をかけずに指板とフレットを削り、その後に弦を張ったままテンションすり合わせをして完成いたします。
しかしながら弦のメーカーを変更(材質により弦長力が異なる場合もある。)したり、異なる弦径にしてギターに弦を張ると指板の先端が盛り上がってしまいます。
これはStraight Fingerboardで説明したようにギターに弦を張るとジョイントの先から起き上がる(アメリカの職人の間では『スキーランプ』と云います。)ことで新品のギターであってもハイポジ起きが発生し弦がビビる場合があります。
Fall-away Fingerboardは12Fくらいから徐々に指板エンド側に傾斜加工することで、ハイポジ起きを防ぐ効果があり、特にハイポジの演奏性もアップします。
ただし弦張力に関しては木材の材質やネックジョイントの角度等によりFall-awayにするのはあまり好ましくない場合もあります。
つまり適切な量のFall-awayを削れば、最適な弦径やギターピッチ通りに張った時にネックの起き上がりとなることで指板面が自然と水平となることによって完璧な演奏が出来ますが、実際のギターにおいては弦メーカーのモデルにより弦張力や材質が異なるだけでなく個人の好みにより弦を別サイズの弦に変更する場合もあり、このFall-awayの正確な削り幅を加工することは困難となります。
この場合におけるFall-awayの削りに関しては、どの程度Fall-awayの加工部分を削りどこを削るかの推測となるからで、より正確なFall-awayを求める場合にはネックジグを使用した模擬弦張力によるFall-awayとし、お客様が使用する弦の最大幅も事前に把握しないとFall-awayの削り幅も加工出来ません。
指板の選択について
1種類目、2種類目のStraight FingerboardまたはFall-awayのいずれかで指板を製作することも可能です。
また2種類目のStraight FingerboardとFall-awayを組み合わせて製作することも可能となりますが、テンションすり合わせ時に特に1箇所のフレット部分に集中的に削ることになりますので、全てのフレットの高さは同じですが、1箇所のフレットのみ削り幅は0.1mmから0.2mm程度低くなりますので円錐指板にすることをお勧めいたします。
ただしネックジョイントの角度や弦径サイズの幅によっては指板の組合せやFall-away(弦径サイズの幅)の加工が出来ない場合もありますのでご注意下さい。
なおFall-away Fingerboard、straight Fingerboardは円錐指板または円錐指板のどちらも対応可能となります。
指板上部(ナット側)と指板エンド幅が同じ幅で指板のR形状の中心線に対して弦自体が平行であった場合には円筒指板でも問題はありません。
円筒指板は、指板が長方形に製作されていれば円筒指板でも問題ありませんが、実際のギターではナット側は狭く・指板エンド側は広くテーパー状に加工されているため、円筒指板の場合では自然(テーパー)の流れに逆らって弦を強引に張っている状態になります。
そのため弦を指板に押した時、弦は中心に収束されていないため弦が捻るような状態となり、184R等のきつい指板だと指板両端と中心部との間に高低差があるため特にチョーキング時に音が詰まり易く、そしてハイフレット側(24F側の高音域)のフレットの高さを低くすることで音詰まりはある程度解消はされますが弦高は極限まで下げることは出来ませんので各フレット間の音程ピッチを押さえることが難しいため音程の狂いが発生しやすくなります。
つまり逆反り状態に近い弦の張り方のセッティングとなるために正確な弦長で製作したギターでも音程間のピッチのズレが円錐指板よりも若干大きく、指板エンド側の弦高やブリッジの弦高を下げてもギター調整時においては円錐指板よりも弦高を低くセッティングする事は難しくなります。
その影響もあって擦り合わせ時にフレットの量が多く、想定以上にフレットを削ってしまうために指板サイドの厚みが不均一になりやすいのが難点で、さらに一般的な高音域側の弦高設定は6弦は2mm、1弦2mmくらいの弦高設定となります。
簡単に表す方法として茶筒に定規を斜めに当てると両サイドに大きな隙間が出来ます。
円錐指板の特徴
実物のギターの指板はテーパー状に加工されているため、円錐指板で製作したギターの場合には、テーパーの流れに逆らわずに弦が張っている状態になり、円錐指板のR形状は中心に収束される方向が直線状であることから指板に対して弦の張り方が理想的な原理に沿って張られている。
ネックとの関係は順反りや逆反りの少ない状態となることから円錐指板のR形状はギターやベース指板の理想的な形状となる。
またすり合わせによるフレットの減りも少なく、弦高を極限まで下げることが出来るようになるため各フレット間の音程ピッチの狂いも円筒指板と比べて音程の狂いが少ないのが特徴で、安定したフレットを提供しやすくギターに弦を張った時に指板両端と中央部との高低差が少ないためスムーズにチョーキングもしやすくなります。。
そのため逆反りや順反りのないテーパー状の流れに沿った自然の弦の張り方となることでギターの弦高を極限まで低くセッティングすることが出来るとともに円筒指板よりも若干ですが音程の狂いを若干抑えることが出来ます。
本当に理想的な状態の指板となります。
ですのでネックの状態が良い場合では円筒指板では不可能だった指板エンド側の6弦の弦高では約1.5mm、1弦側の弦高も約1.5mm前後くらいの弦高設定も可能ですので、安定した音程と弾き易さを提供することが出来ます。
基本となるナット側の円錐指板は、7R(178R)・7.25R(184R)・9R(228.6R)9.5R(241R)・10R(254R)・12R(305R)の中からナット側の指板Rを決めて下さい。
指板エンドはブリッジRによりRのサイズが異なります。
その他の場合はメールで問い合わせて下さい。
指板エンド側の指板Rの設定について
円錐指板には、3通りの指板エンドのR面の決め方があります。
ブリッジのRが決まっているタイプ(T・O・Mやフロイドローズ等)とブリッジ駒の高さ調整が可能なタイプ(例:シンクロナイズドブリッジ等)があり、それによって円錐指板エンドのRとブリッジRが異なります。
1:ナット側の指板Rを決めて、指板エンドのR面をブリッジと同じR面にするタイプ。
※指板エンドとブリッジRが同じなので弦の通りは理想的ではありませんが、良く使用されているタイプです。
2:ブリッジRの調整が出来ないブリッジ(TOMやフロイドローズ等)の場合は、指板のナット側のRを決め、それに沿って指板エンド側のRを決めるタイプは、
例えば、ギタースケール648mm、指板のナット側のRを254R(半径127R)、ブリッジRが304.8R(例:T・O・M等/半径152.4R)、フレット数24F、ナットから指板エンドまでの長さ497.777として表すと指板エンドのRは293.042Rとなります。
※弦の通りが理想的な通りとなります。
※指板の長さによってRが微小に異なります。
※円錐指板Rの特徴の図を参照
3:ナット側の指板Rと指板エンド側の指板Rを決めて、駒の高さ調整が出来るブリッジ(例:シンクロナイズドブリッジ、TEブリッジ等)については、
例えば、ギタースケール648mm、指板のナット側のRを254R(半径127R)、ナットから指板エンドまでの距離と500mm、指板エンドのRを406.8R(203.4R)、フレット数24Fとして表すと、ブリッジRは452.316Rとなります。
この場合アクリル板やプラ板等で製作したRゲージが付属します。
※弦の通りが理想的な通りとなります。
※円錐指板Rの特徴の図を参照
下記の図は円錐指板のRの設定をわかりやすくした図で、例として図を作成しました。
上図面が指板でギタースケールは648mm、ナットから指板エンドまでの長さが500mm、ナット幅42mm、指板エンド幅56mmを想定して図面を作成しました。
下図面はナット側が254R、指板エンドが406.8Rとして図面を作成しました。
上下の図面のナット、指板エンド位置、ブリッジ位置は同じで図面を作成しました。
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